メディカルラボ通信
2022年5月号-②『医学部を目指すための学習アドバイス~化学編~』【後編】
2022.5.23 公開
2022.6.4 更新
2022.6.4 更新
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今回はメディカルラボの化学講師の早川泰之先生に,22年度入試の傾向を分析していただくとともに,医学部を目指す上で必要な学習のポイントについてアドバイスをいただきました。
前編に引き続き,【後編】では「国公立医学部入試の化学の出題傾向」と「医学部受験生への学習アドバイス」についてお伝えします。
前編に引き続き,【後編】では「国公立医学部入試の化学の出題傾向」と「医学部受験生への学習アドバイス」についてお伝えします。
CONTENTS
2022年度 国公立医学部入試における化学の出題傾向
国公立医学部の一般選抜の問題を振り返ってみましょう。
2022年度の国公立医学部の化学は,私立医学部と同様に出題に関してはほぼ従来の形に戻ったように見受けられました。
2021年度にやや難化した東京大学は,2022年度も依然として高度な思考力を求めるような出題でした。メディカルラボ通信の2021年11月号で木下貴善講師が注意すべき項目として挙げていた「温暖化・二酸化炭素」が先述の東京大学や札幌医科大学で,「実在気体の状態方程式」・「リチウムイオン電池」・「アレニウスプロット」が千葉大学で出題されました(「実在気体の状態方程式」については東北大学でも出題)。
東京医科歯科大学では,同講師が挙げていた「ミカエリス・メンテンの式」のほか,尿試験紙法(尿定性検査の1つ)が出題されました。これは,尿中のタンパク質・グルコース・感染症による亜硝酸塩・ケトン体(脂肪酸の代謝産物)を一度に判定できる方法で,医学と化学の関わりを示す興味深い内容です。東北大学では,2010年のノーベル化学賞を受賞した「鈴木-宮浦クロスカップリング反応」が取り上げられました(参考リンク:岡内・北村(2019)『高校生のためのクロスカップリング実験—ノーベル化学賞の鈴木-宮浦クロスカップリングを題材に—』,化学と教育,67(3), p.130-133.)。
名古屋大学では「マグネシウム空気電池」が出題されました。2021年度にも共通テストで「空気亜鉛電池」が出題されるなど,新しい電池の出題例が増えてきています。大阪大学では「モルヒネの分子構造と電離平衡」が出題されました。
2021年度は東京医科歯科大学で滅菌や消毒に関する内容が出題されましたが,2022年度は浜松医科大学で「消毒液に含まれる塩化ベンザルコニウムのメチレン基を求める計算問題」,九州大学で「殺菌剤に使われる塩素系洗浄剤(次亜塩素酸ナトリウムを含む),塩酸系洗浄剤(塩酸を含む)による塩素発生」が出題されていました。
空所補充メインですが,筑波大学では「ワクチンによる抗体産生やPCR法」が導入部で言及された問題(設問自体は基本的なもの),鹿児島大学では「抗生物質」などの医薬品に関する出題がありました。
2022年度の出題で最も興味深かったのは,東京大学の「二酸化炭素の排出量」に関する問題です。第2問-Ⅰは二酸化炭素の排出を減らすために火力発電の燃料としてアンモニアを用いる二酸化炭素排出抑制技術に関する問題(図2),第3問-Ⅰは二酸化炭素の海洋貯蔵に関する問題(図3)で,ともに二酸化炭素に関する内容でした。受験化学の知識が,このように環境問題の解決策につながる点に期待する大学の姿勢を感じます。今後,このような内容やその都度の先端技術を扱う問題が他大学でも出題されていくものと考えられます。